この人に聞く!vol.2 小原流岐阜支部 矢井 豊功先生

矢井 豊功先生

2021年に2名の生徒を専門教授者に育てられ、「専門教授者育成表彰」を受けられた矢井豊功先生。
今回は、専門教授者育成にご尽力いただいている矢井先生に、丸専育成のお考えや育成方法についてお話しをお伺いしました。

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矢井先生といけばなとの出会いは、こちらの記事で紹介しています。


矢井先生が専門教授者になられた当初

-専門教授者育成についてお伺いする前に、まずは矢井先生が丸専になられた頃についてお話しを聞かせてください。

今から30年ほど前、私が三級家元教授のときに専門教授者になりました。
岐阜支部の先輩が開校されていたお花屋さんのカルチャー教室を引き継いだのですが、多いときで30名ほど生徒さんがいらっしゃいました。
私より年上の方も大勢いらっしゃいましたが、「私に教えられるのかな・・・?」という不安よりも「ぜひやってみたいー!」というワクワク感が先立ったことを覚えています。
今思うと怖いもの知らずだっただけかもしれませんが(笑)。

-とはいえ「いけばなを教える」ことは初めてのご経験でしたよね?プレッシャーもあったと思うのですが?

未経験の事でしたのでプレッシャーはもちろんありました。
でも間違った事を教える訳にはいかないので、分からないことや判断に迷うことがあれば、当時の親先生にすぐに尋ねていました。
三級という比較的若い資格で専門教授者になったのですが、不安な事を一つ一つ確認して生徒に伝えるという繰り返しが、専門教授者としての成長に繋がったと思います。

成長と言えば、今は研究院副院長の金森 厚至先生に師事しています。
お教室には他支部の支部長先生や幹部の先生、そして研究院講師の方々が大勢いらっしゃいます。
お花の技術はもちろん、小原流人としての立ち振る舞いや考え方など全てにおいてハイレベルな環境ですので、そこで学んでいることは技術だけではなく、様々な秩序やそれに伴うマナーなど、小原流で大切な事がたくさん詰まっています。
この精神的な学びは「指導のヒダ」として、自分のお教室で「言葉で伝えられないことは私の背中を見て学んでくださいね」と生徒に伝えています。
また、自分自身に対してもお花の技術向上において負荷を与え、小原流人としても常に厳しく自分を見つめ直すようにしています。


-ご自身のためにも、教室で教えるためにも、常に研鑽を積まれているのですね。ご自身の教室の雰囲気はいかがですか?

なにはともあれいけばなを楽しむことが大前提ですが、「他社中に対して敬意を払う」、「名誉幹部の先生方を敬う」、「支部を大切にする」といったことを生徒にお伝えしています。
これは、小原流の変わらない部分としてとても大切なことだと思います。

とは言え、生徒にもいろいろな考えをお持ちの方がいらっしゃいます。
誰にでもこのようなお話しをするのではなく、その方を見極めてお話しするようにしています。



専門教授者育成における視点と育成方法

-「人を見極める」ということは、専門教授者育成に繋がる視点なのでしょうか?

そうですね。「もっと上手になりたい」、「いけばなを純粋に楽しみたい」、「上手になりたいけれど、いけばなの先生にはなりたくない」など、生徒の希望はそれぞれです。
正直、小原流に対する距離感もバラバラです。
そんななかで、誰かれ構わず一方的にこちらの考えや想いを伝えるよりも、その方に合わせ、話す内容を変えて指導していくことが重要だと思います。

個人的な経験ですが、そうして師範科くらいまで指導してくると、「お花への姿勢」や「責任感」など、その方の人となりが見えてきて、「もしかすると丸専になってくれるかも?」という見極めが出来るように思います。

その判断に至ると、その方には直接言いませんが、丸専の方向へ少しだけベクトルを変えて指導していきます。
丸専になりたいと思わせる指導が必要なのではないでしょうか。



₋自発的に「先生になってみようかな?」と考えてくれるようになるのですか?

そう思ってくれる方が多かったです。
「丸専になりたい?なりたくない?」と、私から聞く事はあまりありません。
「丸専になりませんか?」といきなり問うても難しいと思います。

丸専になるには、当然様式に踏み込まなければなりません。
私の場合、
若い方でも外国人でも分け隔てなく、お稽古で積極的に様式を取り入れているのですが、「さぁ今から様式のお勉強をします!」みたいな言い方はあまりしません。
その理由は、「様式」と聞くと「ハードルが高そう・・・」と身構える生徒がいること。
そして様式のルールや、様式は難しいという概念を持つ前に、写景自然の趣きや色彩の美しさを伝えて、小原流の魅力をもっとたくさん感じてもらいたいからです。

私自身が
様式が大好きなのもありますが(笑)、お花が情熱の伝道師となってくれて、小原流の魅力を生徒に伝えてくれます。
そして、いつしか生徒の心のなかで「わたしも小原流のいけばなを伝えたい!」という感情が芽生えてくる気がするのです。

丸専育成は、謙虚にお花と向き合えることや、まっすぐひたむきな努力が出来ること、そして何より小原流の花に魅力を感じてくれることなど、「その方を見極める眼」と、「丸専になりたいと思ってもらえる指導」が必要なのでは?と感じます。
それには、日々のお稽古あるのみです。

若い専門教授者を輩出

₋2021年に、矢井先生は准教授と三級という若い資格の専門教授者を輩出されました。

三級の方は30代で、先述の指導で順調に専門教授者になってくれました。
そして准教授の方はセルビア出身です。


₋准教授の方は外国の方なのですね。

彼女からはとても良い刺激を受けていて、ちょうど私が研修課程Ⅲ期のころに教室に来てくれました。
当時の国際課から「外国人の方で、岐阜で習いたい方がいる」との連絡を受けてからの付き合いです。

遠くセルビアから日本にやってきて、毎日頑張って日本語の勉強をして、懸命に日本の習慣にも慣れて、いけばなが大好きになってお稽古して・・・と、彼女のひたむきさには本当に頭が下がります。
私も研修課程を頑張っていたつもりでしたが、彼女の努力を感じて更に勇気をもらいました。
Ⅲ期終了後に講師試験を受けたのも、頑張っている彼女の姿に背中を押されたのが正直なところでした。

また、刺激といえばSNSです
現在、教室の告知はinstagramのみで行っているのですが、これも彼女に教えてもらいました。
「写真を載せるのはインスタがいいよー」と勧められてアカウントを作り、もう5~6年楽しんでいます。
写真の載せ方や照明、編集の方法、「少し動画を載せるのもいいよー」といったアドバイスなど、いつもさりげなく教えてくれます。
本当に教え方が上手なんですよ。
SNSに関して彼女が私の親先生ですね(笑)。



₋そして頑張って専門教授者になられたのですね。三級の方も若くして専門教授者になられました。

私自身が27歳、三級のときに専門教授者となりました。
年齢も若く大変でしたが、その時の頑張りが今の私を支えてくれています。

たとえ准教授や三級であっても、生徒と一緒に勉強してお互いに育っていけば良いのではないでしょうか。
それには、人を知る事と同じくらい自分を知るこが必要です。
キャリアが無く資格も若いという自分自身をきちんと理解していれば、自ずと謙虚な気持ちで生徒と向き合えるに違いありませんし、何より、教えるために前向きな努力をするはずです。
多くの先生方がおっしゃる通り、教えるために自分を磨くことが何より力になると思います。

そしてもうひとつ、社中が丸専になった後についても考えなければならないと思います。
生徒を専門教授者に育成
して終わりではなく、そこからはまた、丸専としての育成活動が続いていきます。
以前、今は岐阜支部の幹部となっている2名の方を専門教授者まで育成しました。
現在はとても
良い関係を築けていますが、そうなるまでは、マナーや秩序といった事について相当な覚悟を持って指導したことが思い出されます。
新しい丸専のお二人とも、今後そのようなことを話すことがあるかもしれませんし、これからまた切磋琢磨していくつもりです。
後進の育成には、その人を見極める眼に加えて、「どんな丸専に育てていくか」という、その後の責任もしっかり受け止める覚悟も必要だと思いました


これからの時代のいけばな指導について

-これからのお教室運営に必要なことはどんな事でしょうか?

今は、流行では無く本当にお花が好きな方が集まってくる時代だと思います。
でも、お花が好きという共通点はあるものの、いけばなを習う意味や小原流に対する想いなど価値観は千差万別です。
ですので、まずは「その方を知る」ことがとても重要な時代だと思います。
それが丸専育成の指導力にも繋がるのではないでしょうか。
それを土台に、「この先も変わらない小原流の古き良きこと」を伝え、それと共に「十人十色の生徒の希望」に応える対応力を養い、そして、今日よりは明日、明日よりは明後日と、日々「花の技術」を磨く努力が必要だと感じます。

私は努力の向こう側を見るために、日々お稽古に精進するのみです。
楽しい中
にも少しだけ厳しさが必要なのかもしれません。


今回、ご登場いただいた岐阜支部 矢井豊功先生。中日いけばな芸術展後のお忙しいところお時間をいただきました。常にご自身を厳しく見つめ、律し、日々努力を続けられていらっしゃいますが、たどたどしいインタビュアーにも気さくに接していただき、本当に感謝申し上げます!変わらない事と、変える事のバランスを見極めながら、これからも矢井先生の専門教授者活動は続いていくことと思います。先生、今後ともどうぞ宜しくお願いいたします!

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